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ピロリ菌とは?原因・症状・検査・除菌治療まで

目次

1. ピロリ菌とは

ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、胃の粘膜にすみつく細菌で、日本人の胃がんの最大の原因と考えられています。
実際に、日本の胃がん症例の約99%はピロリ菌感染と関連していると報告されており、ピロリ菌陰性の胃がんはごく少数です
(Ono S ら, Digestion 2012/Matsuo T ら, Helicobacter 2011)。

ピロリ菌に感染したまま放置すると、

  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
  • 萎縮性胃炎
  • 胃悪性リンパ腫(MALTリンパ腫)

など、さまざまな病気を引き起こします。

一方で、適切な除菌治療を行うことで、これらの病気の発症リスクを大きく減らせることが分かっています。

近年は、20〜30代に見られる「鳥肌胃炎」にも注目が集まっています。鳥肌胃炎があると、進行の早い未分化型胃がん(スキルス胃がん)を発症しやすいとされており、早期に診断して除菌することが非常に重要です。
ピロリ菌に感染していた期間が短いほど、除菌による胃がん予防効果は高くなると考えられています。

中学生以上であれば、保険診療でピロリ菌の検査・治療が可能です。

  • ご家族にピロリ菌感染・胃がんの方がいる
  • 幼少期を地方で過ごし、井戸水などを飲んでいた

といった方は、一度はピロリ菌検査を受けておくことをおすすめします。


2. ピロリ菌の原因・感染経路

ピロリ菌の多くは、乳幼児期に口から感染すると考えられています。特に、感染している親や家族からの

  • 口移しでの食事
  • スプーンや箸の共有
  • キス

などの接触を通じて、子どもにうつる「家族内感染」が主な感染経路とされています。

かつては、井戸水や川の水を飲むことが感染源になることもありました。上下水道が整備されていなかった時代には、地域全体で感染が広がりやすい環境でした。現在では水道水からの感染はほとんど問題になりませんが、

  • 川遊びの際に川の水を飲んだ
  • 山やキャンプ場で消毒されていない水を飲んだ

といった経験がきっかけで感染する可能性はゼロではありません。

ピロリ菌感染を疑う背景

次のような方は、ピロリ菌に感染している可能性が高く、一度検査を受ける価値があります。

  • 両親のどちらかがピロリ菌陽性、または除菌治療歴がある
  • 幼少期に井戸水・川の水を飲んでいた
  • 衛生環境が十分でなかった地域・時代に育った

3. 日本における年齢別のピロリ菌感染状況

<出生年別のピロリ菌感染率のグラフを挿入>
(Wang C ら, Sci Rep 2017 より作成)

日本では、ピロリ菌の感染率は「生まれた年代」によって大きく異なります。

  • 10〜20代:感染率はおよそ10%前後と低い
  • 50歳以上:70〜80%程度が感染していると報告

この差は、幼少期の衛生環境の違いによるものです。若い世代は上下水道が整備され、衛生状態の良い環境で育ったため、感染率が大きく下がりました。
一方で、戦後〜昭和の時代に子ども時代を過ごした世代では、井戸水の使用や家族内感染が多く、幼い頃にすでに感染していた方が多数存在します。

今後、日本全体の感染率は少しずつ下がっていくと予測されていますが、若い世代でも一定数の感染者がいるのが現状です。
自覚症状がなくても感染していることがあるため、人生で一度はピロリ菌の有無を確認しておくことをおすすめします。


4. ピロリ菌による症状

ピロリ菌は、胃粘膜に長期間炎症を起こし続け、萎縮性胃炎を進行させます。その過程で、次のような症状が出ることがあります。

  • みぞおちの痛み
  • 胃もたれ・胃の不快感
  • お腹の張り
  • 吐き気・嘔吐
  • 胸やけ
  • 食欲不振
  • 口臭

ただし、感染していても全く症状が出ない方も少なくありません。
症状がないまま炎症だけが進行し、萎縮性胃炎を経て、初めて見つかったときには胃がんだった、というケースも現実に起こっています。

口臭との関係

近年、ピロリ菌除菌によって口臭が改善する例が報告されています。胃の炎症や胃内環境の悪化が臭いの原因となるため、口臭が気になる方は、一度ピロリ菌感染の有無を調べてみるとよいでしょう。


5. ピロリ菌感染を疑うチェックポイント

次の項目のうち、いくつか当てはまる方は、ピロリ菌検査を一度受けてみることをおすすめします。

  • 両親のどちらかがピロリ菌陽性、または胃がんになったことがある
  • 幼少期に井戸水・川の水を飲む機会があった
  • 戦後〜昭和の時代の衛生環境で育った
  • 慢性的な胃もたれや胃の不快感、胸やけが続いている

ピロリ菌は、1回の検査と1週間程度の除菌治療で対策できる細菌です。
放置すると胃がんを含む多くの病気の原因となるため、「気になったときに早めに調べる」ことが大切です。


6. ピロリ菌が関与する病気

ピロリ菌は、慢性的な炎症を通じて様々な病気の発症に関わります。代表的なものは以下の通りです。

  • 萎縮性胃炎(慢性胃炎)
  • 鳥肌胃炎
  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
  • 胃がん
  • 胃MALTリンパ腫
  • 胃過形成性ポリープ
  • 機能性ディスペプシア
  • 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
  • 鉄欠乏性貧血

6-1. 萎縮性胃炎(慢性胃炎)

ピロリ菌感染が続くと、胃粘膜の炎症が慢性化し、粘膜が薄く・でこぼこした状態になります。これが萎縮性胃炎です。
胃がんのほとんどは、この萎縮性胃炎を土台として発生すると考えられています。

萎縮の程度は「感染していた期間」が長いほど強くなります。
除菌治療を行っても、すでに萎縮してしまった粘膜を完全に元に戻すことはできませんが、除菌によってその後の胃がん発症リスクは約4分の1まで低下すると報告されています。

<萎縮性胃炎の内視鏡画像を挿入>

6-2. 鳥肌胃炎

鳥肌胃炎は、ピロリ菌が原因となる慢性胃炎の一型で、内視鏡で見ると胃粘膜が「鳥肌」のように細かく盛り上がって見えるのが特徴です。

  • 20〜30代の若年層に多い
  • 未分化型胃がん(スキルス胃がん)を発症しやすい

といった点が重要です。
除菌により炎症は徐々に落ち着きますが、悪性度の高いがんが発生する可能性があるため、除菌後も定期的な胃カメラフォローが必要です。

<鳥肌胃炎の画像を挿入>

6-3. 胃潰瘍・十二指腸潰瘍

胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、胃酸とピロリ菌の影響で粘膜が深くえぐれてしまった状態です。

  • みぞおちの痛み
  • 吐き気・げっぷ
  • 吐血や黒色便(タール便)

などをきっかけに見つかることがあります。時に大量出血や穿孔(穴があく)を起こし、命にかかわることもあります。

潰瘍患者の80〜90%でピロリ菌感染が確認されると言われており、ピロリ菌は潰瘍の最大の原因です。
除菌を行うことで、潰瘍の再発率を大きく下げることができます。

<胃潰瘍・十二指腸潰瘍の画像を挿入>

6-4. 胃がん

胃がんは、今もなお日本人に多いがんの一つです。ピロリ菌除菌の普及により死亡率は減少していますが、男女ともにがん死亡原因の上位を占めています。

  • 日本人の胃がんの約99%はピロリ菌感染が関与
  • 除菌により胃がん発症リスクは約4分の1まで低下

と報告されていますが、リスクがゼロになるわけではありません。
除菌後も定期的に胃カメラを受けることが、早期発見につながります。

<胃がんの画像を挿入>

6-5. 胃MALTリンパ腫

胃MALTリンパ腫は、胃粘膜のリンパ組織から発生する悪性リンパ腫の一種で、比較的ゆっくり進行するタイプです。自覚症状に乏しく、検診で偶然見つかることもあります。

注目すべき点は、ピロリ菌との強い関連です。
ピロリ菌が原因の胃MALTリンパ腫のうち、60〜80%は除菌療法だけで腫瘍が消失または寛解するとされています。
そのため、診断された場合にはまずピロリ菌除菌が第一選択になります。

<MALTリンパ腫の画像を挿入>

6-6. 胃過形成性ポリープ

ピロリ菌感染でできやすいポリープが「過形成性ポリープ」です。基本的には良性ですが、出血したり、大きくなって一部ががん化することがあります。

ピロリ菌を除菌すると、約7割の症例でポリープが縮小または消失したという報告があり、過形成性ポリープが見つかった際は、まずピロリ菌感染の有無を調べることが推奨されます。
20mm以上・出血を伴うポリープは、内視鏡治療を検討します。

<ポリープの画像を挿入>

6-7. 機能性ディスペプシア

機能性ディスペプシアとは、胃カメラでは異常が見つからないにもかかわらず、

  • 心窩部痛
  • 胃もたれ
  • すぐお腹がいっぱいになる(早期膨満感)

などの症状が続いている状態です。若い女性や、ストレスの多い方に多いとされます。
原因の一つとしてピロリ菌が関わることがあり、その場合は除菌で症状の改善が期待できます。

6-8. 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

ITP は、血小板に対する自己抗体が作られ、血小板が減って出血しやすくなる病気です。鼻血、歯ぐきからの出血、あざができやすいなどの症状がみられます。

ITP 患者のうち、ピロリ菌感染がある方では、約半数で除菌後に血小板数が改善すると報告されており、ITP が見つかった際にはピロリ菌検査・除菌が推奨されています。

6-9. 鉄欠乏性貧血

鉄欠乏性貧血は、鉄不足によりヘモグロビンが減ってしまう状態です。食生活や月経による出血が主な原因ですが、一部ではピロリ菌感染も関与します。

萎縮性胃炎が進むと、胃の働きが落ちて鉄の吸収が悪くなり、鉄剤を飲んでもなかなか改善しない貧血となることがあります。この場合、ピロリ菌除菌で貧血が改善するケースもあるため、原因不明の鉄欠乏性貧血が続く方では、ピロリ菌検査が有用です。


7. ピロリ菌と胃がんリスク

7-1. 発がんのメカニズム

ピロリ菌は胃粘膜に慢性的な炎症を起こし、時間の経過とともに

  1. 正常粘膜
  2. 慢性胃炎
  3. 萎縮性胃炎
  4. 腸上皮化生
  5. 胃がん

という段階を踏んで進行すると考えられています。
この中で「萎縮性胃炎」が、胃がんの土台となる状態です。

7-2. 感染者と非感染者のリスク差

研究により、胃がん患者のほとんどがピロリ菌感染歴をもつことが分かっています。
ピロリ菌陰性で胃がんになるケースもありますが、その割合はまだ少数で、

  • ピロリ菌に感染していない人:胃がんリスクは非常に低い
  • 感染したままの人:将来胃がんになる可能性が明らかに高い

というのが現在の共通認識です。

近年は「ピロリ菌陰性胃がん」も注目されており、感染していなければ絶対安全というわけではありませんが、感染の有無はリスク層別化のうえで極めて重要な情報です。

7-3. 除菌後の発がんリスク

除菌を行うことで胃がんの発症リスクは約4分の1まで下がりますが、ゼロにはなりません。
特に、

  • すでに萎縮性胃炎が高度である
  • 鳥肌胃炎など高リスク所見がある

といった方では、除菌後も胃がんが発生する可能性が一定程度残ります。

「除菌したからもう大丈夫」と胃カメラを受けなくなってしまうと、数年後に進行がんで見つかる危険があります。
除菌後も、定期的な胃カメラ検査を継続することが重要です。


8. ピロリ菌の検査方法

ピロリ菌の検査は、大きく「胃カメラを用いる方法」と「胃カメラを使わない方法」に分けられます。
正確な診断のためには、必要に応じて2種類以上の検査を組み合わせて判断します。

8-1. 胃カメラ(内視鏡)+組織検査

専門医による内視鏡診断

保険診療でピロリ菌の検査を行う場合、まずは胃カメラで胃の状態を確認する必要があります。
ピロリ菌そのものは直接見えませんが、感染時に特徴的な内視鏡所見があり、

  • 胃粘膜のびまん性発赤
  • 洗っても取れない白濁粘液
  • 萎縮性胃炎の所見

などを総合して、

  • 現在感染している(現感染)
  • 以前感染していたが今はいない(既感染)
  • これまで感染歴がない(未感染)

を高い精度で推定できます。

迅速ウレアーゼ試験

胃カメラ時に少量の胃粘膜を採取し、尿素を含む試薬に入れて色の変化を見る検査です。ピロリ菌が産生する「ウレアーゼ」により尿素が分解されると、試薬がアルカリ性になり色が変化します。
短時間で結果が分かるのが特徴です。

8-2. 胃カメラを用いない検査

尿素呼気試験

検査薬を飲んだあと、一定時間後の「息」を採取して調べる方法で、ピロリ菌検査の中でも最も精度が高い検査の一つです。胃全体のピロリ菌の状態を反映できるため、除菌後の判定にも第一選択となります。

前日の絶食(8時間以上)や、一部の薬剤の休薬(PPI・抗菌薬・ビスマス製剤などを2週間中止)が必要です。

便中抗原検査

便に含まれるピロリ菌の抗原を検出する検査です。自宅で便を採取し、医療機関に提出します。
PPI などの胃薬を飲んでいても結果への影響が比較的小さく、除菌後の判定にも使える、使い勝手のよい検査です。

血清抗体検査

血液中のピロリ菌抗体の有無を調べる方法です。採血ついでに実施でき、簡便なのが利点です。
ただし、一度感染したことがあると除菌後もしばらく抗体が残るため、除菌判定には不向きです。どちらかといえば、「これまでピロリ菌にかかったことがあるかを調べるスクリーニング検査」として利用されます。


9. ピロリ菌の除菌治療

9-1. 除菌治療の流れ

除菌療法は、

  1. 一次除菌
  2. 二次除菌
  3. 三次除菌(保険外)

という段階で行います。

  • 胃酸を抑える薬(胃薬)+2種類の抗菌薬
  • 1日2回・7日間内服

が基本的な治療スケジュールです。服用終了から4週間以上あけて、尿素呼気試験などで除菌の成否を判定します。

  • 一次除菌:成功率 約70〜90%(失敗の多くは耐性菌が原因)
  • 二次除菌:一次失敗例に実施し、トータルで約80〜90%が除菌成功
  • 三次除菌:保険適用外のため、自費診療となります。

9-2. 主な副作用と対処

除菌療法では、次のような副作用が出ることがあります。

  • 軟便・下痢
  • 味覚異常(食べ物が苦く感じる、金属っぽい味がする など)
  • 肝機能検査値の一時的な変化
  • 発疹・かゆみなどのアレルギー症状

軽い下痢や味覚異常程度であれば、自己判断で服用を中止せず、原則7日間飲み切ることが大切です。症状が強い場合は早めに主治医へご相談ください。

発熱を伴う激しい下痢、血便、強い腹痛、全身の発疹などが出た場合は、直ちに服用をやめて医療機関に連絡してください。

9-3. 除菌を成功させるための注意点

  1. 薬は指示どおりに飲むこと
    飲み忘れや自己判断での減量は、失敗だけでなく耐性菌の原因になります。
  2. 喫煙は避ける
    喫煙は除菌成功率を下げます。治療期間中は禁煙が望ましいです。
  3. アルコールは控える
    特に二次除菌では、治療中の飲酒は避けてください。
  4. 薬剤アレルギーの申告
    ペニシリンアレルギーがある方は、必ず事前に医師へ伝え、別レジメンを選択してもらいましょう。
  5. 除菌後もフォローを継続
    除菌後に一時的な胸やけが出ることや、きわめてまれに再陽性化することがあります。定期的なフォローアップが重要です。

10. まとめ

  • ピロリ菌は、胃がんをはじめとする多くの胃の病気の原因となる細菌です。
  • 両親が感染している場合や、幼少期の衛生環境に不安がある方は、一度は必ずピロリ菌検査を受けておきましょう。
  • 除菌治療によって胃がんリスクは大きく下げられますが、ゼロにはなりません。
  • 特に萎縮性胃炎が進んでいる方は、除菌後も年1回程度の胃カメラで経過をみていくことが大切です。

「自分がピロリ菌に感染しているか分からない」「除菌後のフォローはどのくらい必要か知りたい」など、不安なことがあれば、消化器内科・胃カメラ専門医にご相談ください。


11. 参考文献

  • Ono S, Kato M, Suzuki M, et al. Digestion. 2012;86(1):59-65.
  • Matsuo T, Ito M, Takata S, et al. Helicobacter. 2011;16(6):415-9.
  • Wang C, Nishiyama T, Kikuchi S, et al. Sci Rep. 2017;7(1):15491.
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