バレット食道は、多くの場合自覚症状がありませんが、放置すると「食道腺がん(バレット食道がん)」のリスクを高める状態です。近年、日本でも食生活の変化に伴い増加傾向にあります。
本記事では、がん専門病院で数多くの症例を経験してきた消化器病・内視鏡専門医である院長が、バレット食道の正体から、がん化のリスク、定期検査の重要性について詳しく解説します。
目次
1. バレット食道とは
バレット食道とは、慢性的な胃酸や胆汁の逆流によって、食道の粘膜(扁平上皮)が、本来そこにはない胃の粘膜(円柱上皮)に似た性質へと置き換わってしまった状態を指します。
多くは無症状ですが、長期にわたって存在すると「食道腺がん」の発生母地となるため、注意が必要です。日本人の約15〜20%が患っている身近な病気であり、近年の逆流性食道炎の増加とともに患者数も増えています。
2. バレット食道の原因・リスク因子
主な原因は、胃酸の逆流が長期間続くことです。以下の疾患や生活習慣がある方は注意が必要です。
原因となる主な病気
- 胃食道逆流症(GERD)/ 逆流性食道炎
- 食道裂孔ヘルニア(胃の一部が胸側に飛び出している状態)
バレット食道のリスクを高める要因
- 体質・属性:50歳以上の男性、肥満・メタボ体型、家族歴
- 生活習慣:飲酒、喫煙、早食い、脂っこい食事
- その他:ピロリ菌除菌後(胃酸分泌の正常化)、特定の高血圧薬(Ca拮抗薬)の使用、猫背による腹圧上昇
3. バレット食道の症状
バレット食道そのものに痛みなどの自覚症状はありません。多くは胃カメラ検査で偶然発見されます。
ただし、逆流性食道炎を合併している場合は、以下のような症状が出ることがあります。
- 胸やけ、酸っぱいものが上がってくる(呑酸)
- 食事のつかえ感、食後の不快感
- のどの痛み、慢性的な咳
4. 検査と診断(SSBE・LSBEの分類)
バレット食道の診断には胃カメラ(内視鏡)検査が不可欠です。当院では通常光に加え、特殊な光(NBI)や拡大内視鏡を用いることで、ごくわずかな凹凸やがん化の兆候を見逃さない精密な検査を行っています。
バレット食道の分類
胃カメラで観察した「長さ」によって2種類に分類されます。日本人の多くはSSBEです。
| 分類 | 定義 | がん化リスク |
|---|---|---|
| SSBE | 長さ3cm未満 | 比較的低い |
| LSBE | 長さ3cm以上 | SSBEより高い |
5. 食道がんのリスクとがん化の確率
バレット食道からがん(腺がん)が発生する確率は、全体で年間約0.1〜0.3%とされています。しかし、長さが2倍になるとリスクは約1.7倍に上昇し、3cm以上のLSBEでは年間約1.2%にまで跳ね上がるという報告もあります。
特に「男性」「喫煙者」「LSBE」の方は、厳重な経過観察が必要です。
6. バレット食道から発生する「腺がん」の特徴
バレット食道から発生するがんは「腺がん」と呼ばれ、日本で一般的な食道がん(扁平上皮がん)とは性質が異なります。
【早期発見の難しさ】
バレット食道腺がんは、周囲のバレット粘膜と色調が似ているため、一般的な内視鏡では見落とされやすく、発見時に進行しているケースもしばしば見受けられます。
当院の院長は、がん専門病院にて多数のバレット食道腺がん症例を経験し、内視鏡治療(ESD:内視鏡的粘膜下層剥離術)を数多く行ってきました。その経験を活かし、微細な変化を捉える「高精度な診断」を提供します。
7. バレット食道の治療と予防
残念ながら、一度変化したバレット食道の粘膜を、元の正常な食道粘膜に戻す薬はありません。そのため、治療の主眼は「逆流を抑えてがん化を予防すること」に置かれます。
薬物療法
胃酸分泌抑制薬(PPIやP-CAB)を用いて胃酸の逆流を防ぎ、食道粘膜への刺激を最小限にします。
生活習慣・食生活の改善
| おすすめ(予防に効果的) | 避けたいもの(リスク要因) |
|---|---|
| ・腹八分目を心がける ・食後3時間は横にならない ・右側を下にして寝る ・消化の良い食事(うどん、白身魚等) |
・喫煙、過度な飲酒 ・脂っこい食事、辛いもの ・お腹を締め付ける服装 ・猫背、重いものを持つ動作 |
8. 胃カメラの適切な検査頻度
バレット食道腺がんは、症状が出てからでは進行していることが多いため、定期的な検査が命を守ります。
- LSBE(長いバレット食道):年に1回の胃カメラ検査
- SSBE + 逆流症状あり:年に1回の定期検査を推奨
- SSBE + 無症状:2〜3年に1回の検査が目安
9. まとめ
バレット食道は「がんの予備軍」としての側面を持ちますが、正しく理解し、定期的な胃カメラ検査を受けていれば、決して怖い病気ではありません。
「バレット食道と言われて不安だ」「詳しい説明を聞きたい」という方は、ぜひ当院の専門外来を受診してください。豊富な経験に基づき、お一人おひとりに最適な管理プランをご提案いたします。
【参考文献】
・Spechler SJ, Souza RF. Barrett’s esophagus. N Engl J Med. 2014.
・Matsuhashi N, et al. Surveillance of patients with long-segment Barrett’s esophagus. J Gastroenterol Hepatol. 2017.

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